tawara's blog

雑記。個人の見解です。

小室直樹『危機の構造』を読んだ

書店で小室直樹の名前を見つけて懐かしいなと思って手にとった。大学の図書館で何冊か読んだ。しかしあまり上品なカバーとは言えない色だ。

概要

副題にあるとおり、日本社会崩壊のモデルが書かれている。1982年の本が復刊されている。中身は論文集で、それらはもう少し前に執筆されている。よって高度経済成長の後期に書かれていることになる。いけいけどんどんだった社会の構造を深く見つめる著者は、このまま社会組織などの諸要素の在り方と他要素との関係性を改善しないかぎり、日本は崩壊すると警告している。解説にもあるとおり、日本はその後「失われた30年」を迎えてしまった。

概要は橋爪大三郎の解説を読めばわかる(pp278)。次のとおり。

  1. 戦前の日本社会と戦後社会は、同型で、連続的である
  2. その特徴は、機能集団が共同体になることである
  3. 共同体は、内部/外部の二重道徳をもち、共同体の存続を絶対化する
  4. 2,3から、機能集団は合理的に行動できなくなり、破滅的な結果をもたらす
  5. 共同体となった機能集団の成員は、深刻なアノミーに陥り、回復できない

戦後に農村共同体が解体し、個人はその代わりに企業に拠り所を見つけた。そして企業は共同体となった。共同体で評価されるには共同体の要請に答えることであり、共同体外部では良しとされていない規範でも関係なく働く(モーレツ社員とか?)。それゆえ外部にとっては破滅的な結果になる可能性がある(公害や戦争)。共同体の要請に答えるために構成員は組織に染まるため、権力に対して無批判になり、アノミー状態となる。そしてこの構造は変わらず拡大し続ける。このままでは日本社会が崩壊するだろう。その対策のためには社会科学的な思考を各人が身につける必要がある。文章に要約すればこんな感じ。

感想

40年も前の話だけれど、現在の社会を分析する枠組みとしては使えるだろう。上記の5つの命題の歴史的検証と、5つの命題は現在どこまで当てはまるのか、について批判的に検討してみたいと思った。例えば共同体はSNSの登場で強まったのか弱まったのか?企業はいまだ共同体となり得ているのか?などなど。大学時代に社会学の分析道具をしっかり身につけておけばよかったと反省した。論理は明晰だが、たまに具体例にピンと来ないことがあった。40年前の本なので仕方がないのだけれど。社会関係の構造を理解する社会学の面白さに改めて気づいた。新書とかまた読もう。

(了)