tawara's blog

雑記。個人の見解です。

今村夏子『とんこつQ&A』を読んだ

amzn.to

相変わらず誰にも変えがたい読書体験だった。新刊を見つけると、思わず興奮してしまう作家だ。出版された本は一通り読んだはずだ。あー面白かった。

「とんこつQ&A」「嘘の道」「良夫婦」「冷たい大根の煮物」の四篇の短編集。なんといっても表題作「とんこつQ&A」が抜群に面白かった。彼女の作品の特徴は「不穏」だと個人的に思っている。その展開も、文章も、会話も、結末もどこか「不穏」な空気に満ちている。それに病みつきになっている。あくまで個人的な意見だ。例えばAmazon?の作品紹介には「人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇を収録、待望の最新作品集!」なんて書いてある。確かにそのような瞬間は物語の核心に近い箇所に配置されているとは思う。ただそれだけではページをめくろうとはならない。不穏だから続きが気になってしまう。あー、あの不穏な物語世界をすでに求めている。

不穏のひとつ原因は、すべてが説明されていないことだ。特に表題作には、その要素が強い。少年と家族の目的、新しい登場人物の背景などなど挙げたらキリがない。そしてもうひとつ物語を不穏にしているのは、出来事に対する登場人物の受けとめ方と行動にあると思う。なぜそのように応対するのだ、「普通なら」そうしないだろうに、、、と思ってしまう。ここで自ら寄って立つ自明の「普通」を相対化されてヒヤッとする。これは自分が自明としている世界や社会への感覚を揺るがされるからなのだろう。

何より読書体験ぜんたいを通して、やや大げさに言えば、生きるために必要な何か大切なものが物語に含まれている、という感覚を持ち続けることができる。そういう物語はとても少ない。あからさまな物語は多いけど、そういうのは大概面白くない。

(了)